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骨を埋める覚悟で−稲田善樹さん−

骨を埋める覚悟で−稲田善樹さん− 旧満州に生まれ、東京に自宅を持ち、新潟県十日町市のアトリエで創作活動。日展入選3回の経験をもつ画家・稲田善樹さんは、昨年10月にさらなる人生の転機を迎えた。
1939年生まれ。57歳で定年退職し、趣味だった絵の道に入る。自転車でモンゴルを一周するスケッチ旅行や、戦禍の跡が生々しい旧ユーゴスラビアに長期滞在し、絵を通して平和を訴える活動などでも有名だ。モンゴルとの交流は友人・家族を巻き込んで今も続き、昨年、モンゴルの作家の原作に稲田さんが絵を描いた絵本を出版した。それがきっかけとなり、モンゴル政府から表彰を受けている。

10月23日午後6時前、十日町市入山(いりやま)にある稲田さんのアトリエが激しく揺れた。家具や画材が散乱し、家の中は一瞬の内に大混乱。そこに、たたみかけるように激しい余震が襲う。身の危険を感じた稲田さんは家を飛び出し、脱穀の終わった籾がらの山の中に身を埋め寒さを凌いだ。

入山は、十日町市の飛渡(とびたり)という地区にある棚田に囲まれた小さな集落。「集落」と言っても既にそこに住む人はなく、いわゆる「廃村」となっていたところに5年前稲田さんが引っ越してきた。十日町の美しい環境に魅かれてアトリエを構え、東京の自宅との間を行ったり来たりしている。

山本浩史さんは、稲田さんの大家にあたる。住まなくなった家を稲田さんに貸し、近くで棚田を営んでいる。地震の夜、たった一人で入山にいる稲田さんが心配になり、寸断された道路を足で乗り越え駆けつけた。そして二人でなんとか山を下り、そのままテントでの避難生活に入る。

稲田さんは、以前個展を主催してくれた東京のNGOに助けを求めた。全国的なネットワークをもつ国際協力団体、JENである。JENはすぐにスタッフを派遣し、ボランティアを募って被災者の救援活動を開始した。19年ぶりの大雪に見舞われた今年、JENのコーディネートで雪堀りボランティアも全国からかけつけた。その中に定年退職した東京在住の男性、今村安さんもいた。

稲田さんと山本さん、そして今村さんの四捨五入して60代トリオは今、「十日町市地域おこし実行委員会」というグループを一緒に運営している。地震で壊れてしまった山里の生活をとりもどし、さらに新たな生業づくりにつなげていきたいと日々活動に打ち込む。拠点は、廃校になった小学校を市から借りて自分たちで改装した。ボランティア20人ほどを泊めることができる。ゴールデンウィークには、22名の参加者が棚田の復旧や田植えの準備、校舎の改装などを手伝った。地元の人々との交流会を開いたところ、「ずっとこの活動を続けてほしい」と感動された。このような山間の集落は住民間の結束力が強く、外からの支援には臆病になりがちである。3人に対する地元の人々の信頼は厚く、それがこの活動の根幹を支えている。「被災地の人々に必要なのは『元気』です。地震にへこたれずに、希望をもって生きることが復興に一番大切なこと。外の人が来て一緒に活動し、励ましてくれることが彼等の元気になる。」3人の元には、地域の外からも「ぜひうちのところでもやってほしい」というラブコールが届いている。

「震災がきっかけで十日町を訪れてくれた人たちとのつながりを大事にし、行く行くはグリーンツーリズムや棚田のオーナー制度、新たな特産品づくりなどに発展させ農業で暮らしが成り立つようにしていきたいと言うのが夢です。」 逆境の中で夢を語る稲田さんの目は、深い縁で結ばれた十日町への愛と情熱に満ちている。「骨を埋める覚悟でやります。」 真剣な表情の中にも、どこか故郷への恩返しができるかのような喜びが覗く。

(2005.6.10 にいがたNPO情報ネット www.nponiigata.jp)

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