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そだ屋のまちづくり −若月 学さん−

そだ屋のまちづくり −若月 学さん−  新発田市を流れる加治川沿いの谷間に、小戸という集落がある。そこに、山林から切り出した雑木の枝を用いて治水工事などを行う若月建設(株)という会社がある。若月学さんが専務取締役として経営するその会社は、今、全国から大きな注目を集めている。

里山などの雑木林から間伐や剪定で切り出される枝のことを粗朶(そだ)と呼ぶ。若月さんの家は、代々この粗朶を生業とする “粗朶屋”である。粗朶は、古くは「シガラ」などと呼ばれて主に薪や柵に用いられていたが、明治時代に、オランダ人技師がこれを束ねて川床に沈めたり、川岸を覆って治水に利用する技術を伝えて以来、全国で河川改修などに用いられるようになった。

昭和40年代、コンクリートの普及に伴い、粗朶は、一度は全国の工事現場から姿を消したかに見えた。しかし、信濃川と阿賀野川という代表的な2つの緩流が粗朶を用いた治水法に適していたため、全国でも新潟だけがこの職人技を守ることができた。その数少ない担い手のひとつが若月建設である。

若月さんは大学で土木工学を学び、卒業後はゼネコンに就職した。コンクリートで河川をコントロールする技術の最前線で働いていたのだ。その一方で、実家でやっている粗朶を使った治水技術に多くの優れた点があることにも気づいていた。17年前、実家に戻った若月さんは、その技術を現代に活かす方法と真剣に取り組み始めた。

粗朶は、河川の生態系を損なわずに、治水や侵食防止などの機能を果たす天然資材である。川に沈められた粗朶は魚の産卵場所や餌場を提供し、雑木林は粗朶を切り出されるおかげで常に若々しく保たれる。「古い枝や混み過ぎた枝を払うことで、若い芽が出て動物達のエサになります。また、若い森はどんどん二酸化炭素を吸収してくれるし、保水能力が上がって洪水も防ぎます。人がつくった里山は人が手を入れてやらなければなりません。県が進めている『緑の百年物語』も、木を植えるだけでなく、木を切ることから自然の循環が始まるんです。」と若月さん。

そうこうしている内に、時代が若月さんに追いついてきた。近年の環境に対する関心の高まりが、再び粗朶に光を当てたのだ。粗朶の価値は、97年の河川法改正でさらに見直された。それまで「治水・利水」とされてきた整備目的に「環境整備・保全」が加わり、多自然型の治水資材として注目を集めつつあった粗朶の復活に拍車をかけた。

8年前、若月さんの取組みが地域づくりの市民活動へと発展するきっかけとなる出来事があった。新発田市の市制50周年記念事業として開催した「水辺のシンポジウム」である。このシンポジウムを市民の手で運営するため、若月さんは有志らと共に市民グループ「加治川ネット21」を立ち上げる。

「水はみんなの共有財産。山も川も平野も海も、みんな水によってつながれ、自然の循環を保っています。『加治川ネット21』発足の目的は、この水の大切さを啓発することでした。モノをつくる土建屋さんを始め、水を利用する市民にも広く知ってもらいたい。8年前のシンポジウムは、その第一歩でした。」

若月さんは、「ビオトープ」という言葉を県内で最初に使い始めた一人でもある。ビオトープ(biotope)とは、「多種多様なものが共生する空間」を意味し、近年、開発済みの土地に生態系を復元したり、新たな建造物の敷地に自然な空間を取り入れる際に、その空間を指す言葉としてよく使われる。このような人工のビオトープをつくる際、若月さんの生業である「粗朶」が大活躍することは言うまでもない。現在、若月さんは日本ビオトープ協会の技術副委員長兼監事を務めるほか、新潟県ビオトープ協会や新潟ビオトープネットワークの理事として、さらには、学校の教材としてのビオトープづくりを進める新潟県学校ビオトープ連絡協議会の一員としても活躍している。

加治川ネット21は、今年、県にNPO法人認証の申請を出した(4月認証見込み)。これをステップに、環境を切り口にしたより幅広いまちづくり活動へと事業展開を図る。既に多忙な若月さんだが、NPOとしての活動が充実するにつれ、輪をかけて忙しくなることは必死だ。

「仕事は増えましたが、人と会うことが好きなので、苦にならずにやっています。それに、NPOとしての活動も、私個人の中ではすべて本業とどこかでつながっていると考えています。環境を守るということは、郷土を誇りに思える様なまちをつくること。多くの人と未来を語れるようなテーマを採り上げ、そこに夢を託して活動していきたいですね。」

代々受け継いできた職人の技と郷土の未来を思う情熱が地に足のついた活動として実り、今、多くの共感を呼んでいる。“粗朶屋”のまちづくりは、この先も様々な発展を遂げることだろう。


加治川ネット21ホームページ:
http://www.inet-shibata.or.jp/~kjn21/

(2003.3.26 にいがたNPO情報ネット www.nponiigata.jp)

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