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元転勤族の地域づくりNPO−井上由香さん

元転勤族の地域づくりNPO−井上由香さん  「小さい頃、転勤族の父親についてマンションを転々としていました。東京・渋谷を中心に各都市を行き来していたのが、佐渡に暮らして14年。ようやく少し『地域』という感覚がわかってきたような気がします。」 そう話す井上由香さんは、佐渡で最初のNPO法人(8/20認証)「しまみらい振興機構」を切り盛りする事務局長だ。

 家族は、篠笛奏者の夫と子ども2人の4人。羽茂町の素浜海岸に近い古民家を買い取り、改修して住んでいる。大工さんに頼みながら、自分達でできることはなるべく行い、地域の友人にも手伝ってもらった。「家」は、帰って眠る場所である以上に、家族が社会とつながるところである。家をつくりながら、そんなことを実感したという。

 NPOとの出会いは、大学の頃に関心を持った「アート・マネジメント」という考え方だった。アメリカでは当時から「芸術」といえばNPOの領域であったが、日本では芸術振興や文化施設の運営は主に行政の領域であり、個性的なものや草の根のニーズに応えるサービスは育ちにくい状況にあった。「芸術」は表現者個人の創意と工夫、技術、感覚の賜物であると同時に、それを鑑賞する側のセンスも重要な要素である。芸術家を育てると同時に、観客も育てる− 営利事業としては難しい面があるが、一律のサービスを旨とする行政も相応しい担い手とは言い難い。これができるのは民間の非営利組織、NPOだ。

 そんな折、佐渡を拠点に活動する和太鼓集団「鼓童」と出会った。’88年に始まった国際芸術祭「アース・セレブレーション」に長期アルバイトとして参加し、佐渡に渡ることを決意。翌年、大学卒業と共に来島。日本で最も海外公演の多いグループが、地元自治体と実行委員会をつくって協働していこうとする動きに関心をもった。

 バブル期で就職には困らなかったご時世に、いわゆる優良就職先を選ぶことはしなかった。それは立身出世の祖父の時代、企業論理が優先される父母の時代とは違う、豊かさへの問いかけであった。鼓童の仕事には、常に目的とするものとそれを実現する「現場」がある。海外公演もあれば地域との交流事業もあり、ひとつひとつ仕事を達成していく喜びが伴っていた。’97年には鼓童文化財団の設立を担当。そうした活動や家づくりを通じて井上さんの中に大きく育ってきたもの− それは「地域」と自分との関わりだった。

 しかし、佐渡の状況を知るにつれ、鼓童での経験を一歩外に出て応用したほうが効果的ではないかというジレンマを感じるようになる。「機動的なNPOをつくって、今までお世話になってきたことへの、自分なりのお返しがしたい。」 元転勤族のハートには、14年の間にすっかり佐渡が沁み付いていたようである。

 今、井上さんがやろうとしているのは、新たな教育プログラムの導入による佐渡の地域づくりである。島の経済は行政の仕事と公共事業が大きな割合を占めているが、今の子供たちが大きくなって暮らしたいと思ったとき、同じ職業を選べる保証はない。将来を担う彼らが、地域の課題を見出し、解決案を共に考え、行動に移すという一連の能力を伸ばす訓練を、学校などとも協力して進める必要があるのではないか。NPOという選択肢も含めて、若い人たちが様々な事業の立ち上げを目指せる土壌をつくり、佐渡が経済的にも自立した循環型社会となるように‥‥これが井上さんの「その先」にある目的だ。鼓童からの独立には、そんな熱い思いがある。

 この夏、佐渡に初めてのNPO法人が誕生した。きっと、すばらしい学びの場を提供してくれることだろう。
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NPO法人しまみらい振興機構のホームページ
http://www.island21.net

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